
家賃(建物の賃料)や地代(土地の賃料)を「適正水準に見直したい」が、どのような根拠で交渉するか、どのような手順で進めるべきか迷う場面は少なくありません。
本ページでは、借地借家法に基づく賃料増減額請求の基本、適正賃料の考え方、交渉から調停・訴訟までの流れ、貸主・借主それぞれの実務ポイントを整理します。
実際の方針は物件の属性や契約内容、地域相場などによって変わるため、個別事情の確認が不可欠です。
賃料増減額請求の案件は専門性が高いですが、当事務所では常時10件程度の賃料増減額案件を手掛けていますので、ぜひご相談ください。
賃料増減額請求が可能な条件(基本の法的枠組み)
借地借家法は、次のような事情で既存の賃料が不相当となった場合に、当事者の一方から相手方へ賃料の増額・減額を請求できる仕組みを定めています。
増減額の請求は、賃貸借契約の更新時に行われることが多いですが、法的には契約期間の途中でも可能です。
- 経済事情の変動(物価、金利、賃金、地域の需要・供給など)の影響
- 固定資産税・都市計画税などの公租公課の増減
- 周辺の賃料相場との乖離(新規・継続賃料の水準)
- 利用状況や利用価値の変化(周辺再開発、交通利便性、設備・築年の影響など)
なお、注意点として、契約で一定期間「増額請求をしない」旨の合意が置かれていることがあります。
合意の有効性は条項の書きぶりや期間、経済事情の変動幅などを踏まえ個別に判断されます。
一方で、減額請求を全面的に排除する趣旨の合意は、法律の趣旨との関係で無効とされる可能性があります。
直近合意時点(現行賃料の設定日)の把握
経済事情の変動や公租公課の増減については、「直近合意時点」を基準に判断します。
「直近合意時点」とは、現行の賃料を定めた時期のことです。契約当初から賃料が改定されていない場合には契約時点が「直近合意時点」になりますし、途中て改定されている場合は、改定時が「直近合意時点」になります。
したがって、賃料増減額請求を検討する場合には「直近合意時点」の把握・確定が非常に重要になります。
「直近合意時点」の把握が難しいケースもあります。たとえば、共益費だけが改定されている場合、賃料額は改定されていないが更新契約書が新たに締結されている場合などに、その時点が「直近合意時点」と言えるかが争いになることがあります。
このような場合には、諸事情を総合的に考慮し、その時点において、「実質的に賃料に関する協議が行われたか否か」で判断することになります。
適正賃料の算定方法(考え方の全体像)
「適正賃料」の評価は、客観的な資料で裏づけることが重要です。実務では、不動産鑑定士に鑑定評価書や意見書の提出を受けて、その根拠とすることが多いです。以下、適正賃料を査定するための主な手法を説明します。
差額配分法
差額配分法とは、現行賃料と現在の経済状況を前提とした適正賃料(新規賃料相当額)との間に生じている差額を算出し、その差を貸主と借主の間で公平に配分することによって、継続賃料の水準を調整する方法です。
簡単に言うと、「現行賃料と現在の相場から見た賃料の差を、貸主と借主で分け合いながら調整する」という考え方です。実務では、賃貸事例比較法や積算法によって算定された新規賃料水準との乖離(食い違い)を前提に、それと現行賃料の中間値(差額配分率50%)を査定額とする例が多いです。
利回り法
利回り法とは、当該建物に投下された資本額を基礎として、そこから合理的に期待される収益を算定し、その収益を確保できる水準として賃料を導く方法です。
簡単に言えば、「この建物に投下された資本からすると、少なくともこれくらいの収益は得られるべきだ」という考え方から、妥当な賃料水準を導く方法です。
ただし、利回り法による算定額が市場相場とかけ離れることがあるため、その場合には単独での決定根拠とされずに、他の手法の結果の合理性を検証する補助的手法として利用されることがあります。
スライド法
スライド法とは、現行賃料を基準として、その後の経済事情の変動を指数化して反映させることにより、現在の妥当な賃料水準を求める方法である。簡単に言えば、「以前決めた賃料を、その後の経済の変化に合わせて調整する」という考え方です。
経済の変化を示す指数としては、消費者物価指数、建築費指数、不動産賃料指数、公租公課の変動などが用いられます。
賃貸事例比較法(継続)
賃貸事例比較法とは、当該建物と立地や規模、用途、築年数、設備等が類似する周辺の賃貸事例を収集し、その賃料水準と比較・補正することによって、適正な賃料額を導く方法である。簡単に言えば、「現在周辺でいくらで賃貸されているかを手掛かりに、賃料を査定する」という考え方です。
継続賃料では、適切な事例を取得することが困難な場合が多く、実務で採用される場面はそれほど多くありません。
手順と流れ|交渉から調停・訴訟まで
任意交渉で合意できない場合には、裁判所の関与(調停・訴訟)に進みます。以下、手続きの流れを説明します。
【主な対応】
- 相場把握
- 資料収集
- 契約条項確認
賃料改定条項・特約の有無、直近合意時点の把握
【主な対応】
内容証明で新賃料案と根拠を提示
増減額の効力発生日を明記
【主な対応】
- 協議
- 分割改定
- 経過措置の検討
段階的改定や一時的調整など柔軟案を準備
【主な対応】
裁判所での話合い
第三者関与で歩み寄りを模索。鑑定活用も検討
【主な対応】
増減額請求訴訟の提起
鑑定評価、比較事例、経済事情の変化を主張・立証
【主な対応】
新賃料・発効時期の確定
請求時点に遡る扱いが問題となることがある
新賃料の効力発生日は、原則として請求をした時点となります。ただし、和解交渉においてはこの点が調整されることがあります。
【貸主向け】増額交渉のチェックリスト
- 契約内容の確認:
改定条項や改定禁止条項の有無を把握。 - 根拠資料の準備:
周辺賃料事例、空室率、修繕・設備更新コスト、公租公課の増加、地価動向。 - 改定案の設計:
即時改定、段階的改定、期間限定の経過措置、更新条件(保証金・敷金)とのセット提案。 - 不動産鑑定士から鑑定評価書や意見書を取得。
【借主向け】減額交渉のチェックリスト
- 乖離の可視化:
周辺相場との差、利用価値の低下(騒音・日照・設備老朽化など)、来客数や売上傾向(事業用)を資料化。 - 費用負担の実情:
共益費・修繕負担、追加工事費などの総コストを示し、総支払ベースでの妥当性を説明。 - 代替案の提示:
一時的減額、期間限定の見直し、修繕工事や更新工事の実施を条件とする調整案など。 - 不動産鑑定士から鑑定評価書や意見書を取得。
最新動向と裁判例の傾向(概要)
個別事情によって結論は分かれますが、近年の判断枠組みには次のような傾向がみられます。
- 単発的な変動より、継続的・顕著な経済事情の変化が重視されやすい。
- 周辺相場との整合性が中心的な指標となり、比較事例の選定と補正の妥当性が争点になりやすい。
- 公租公課の増減や大規模再開発等、客観的な外部要因が評価に影響する。
- 直近合意時点の設定について実質的な判断がなされる。
- 各賃貸借契約の特殊事情に配慮した判断がなされるケースが増加している。
最新の動向を踏まえつつ、対象物件の特性に即した主張・立証計画を組み立てることが重要です。
不動産鑑定士との連携
賃料の妥当性は、法的論点と市場データ等の両輪で評価されます。実務では、適正賃料額を立証するために、不動産鑑定士に意見書や鑑定評価書を依頼するケースが多いです。
不動産鑑定に意見書や鑑定評価書の作成を依頼するメリットは以下のとおりです。
- 豊富な市場データに基づく意見が得られる。
- 複数の査定手法(差額配分法・利回り法・スライド法・賃貸事例比較法など)を適用した緻密な査定をしてもらえる。
- 対象となる賃貸借契約特有の独自の個別の事情を査定額に反映させた査定が得られる。
法務面の手当て(条項解釈、請求・手続)と、数的根拠(鑑定・統計・技術評価)を整合させることで、交渉の説得力と手続の見通しが高まります。
よくある質問(Q&A)
一般に、請求を行った時点を起点に検討されます。ただし、交渉により、起算日について調整がなされることも多いです。
争いのない額を継続して支払う「仮払」の運用が一般的です。新賃料が確定した後に差額を清算する形を前提に、未払による契約違反を避けることが肝要です。
契約の定めが重視されるため、改定条項の有無や内容の確認が出発点です。条項の解釈と借地借家法の規律の関係は事案ごとの評価が必要です。
実務では、賃料だけでなく、同時に共益費、更新料、敷金・保証金、修繕の分担などを総合して合意案が締結されることもあります。
可能な限り、複数の客観資料(成約事例、募集情報、統計、鑑定評価)を組み合わせ、条件差の補正を明示することが望ましいです。ただし、一般的にはこれらのデータを適切かつ多数取得するのは難しいので、不動産鑑定士に意見書や鑑定評価書の作成を依頼することになります。
まとめ|個別事情を反映した証拠資料の準備が鍵
賃料の増減額請求は、市場データや個別事情を反映した資料を駆使して、交渉することが重要です。
また、相手が交渉に応じない場合でも、不動産鑑定士の意見書や鑑定評価書を根拠にするなどして、調停・訴訟を通じて解決が見込めます。
どのような個別事情を重視すべきか、またそれを基にどのような資料を作成するかについては、資料をもとにどのように交渉すべきかについては、賃料増減額案件に強い当事務所にご相談ください。
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