通行権のトラブルを弁護士が解説|通行地役権囲繞地通行権の問題

通行権とは他人の土地を通って移動することができる権利のことを言います。自宅や所有土地から公道へ出るために他人の土地を通らざるを得ないような場合には、この通行権が問題になります。

民法上の通行権には、当事者の合意で成立する「通行地役権」と法律で定められた「囲繞地通行権(いにょうちつうこうけん)」がありますが、通行の対象である土地の所有者が通行を拒絶したり、土地上に障害物を置いたりして通行を妨害したりする場合に、これらの通行権の存否が争われます。

本ページでは、「通行地役権」と「囲繞地通行権」の違い、通行権が認められるための要件、通行の場所・方法・償金(通行料)の考え方、調停・訴訟の流れを、初めての方にも分かりやすく整理します。

実際に通行権が認められるかどうか、通行権を主張するための手続は個別事情で変わりますので、弁護士に相談することをお勧めします。

通行地役権と囲繞地通行権の違い

項目 通行地役権(契約) 囲繞地通行権(法定)
成立根拠 当事者の合意(契約)によって成立(黙示の合意もありうる。) 一定の要件を充たすことにより、法律上当然に生じる
対象の土地 当事者の合意で自由に設定可能 公道に通じない「袋地」のために成立
通行の範囲 当事者の合意で幅員、車両通行の可否などを定める 公道到達に必要最小限、囲繞地の損害最小
対価 設定対価・継続的使用料などは当事者の合意による 原則として相当の償金(事情により無償となる場合あり)

通行権の存否について争いが生じている場合、まず当事者の合意によって通行地役権が設定されているかどうかが争点になることが多いです。

この場合、明示的合意(契約書や口頭などによる直接的な合意)ではなく、黙示的な合意(取引経過・状況・言動などによる間接的に推測される合意)の存否が問題になることもあります。

そして、通行地役権が認められないとなった場合に、囲繞地通行権の存否・通行範囲・償金が争われることになります。

通行権が認められるための要件と基本的な考え方

通行地役権(契約)

成立

当事者(通行権を取得する者と通行の対象となる土地の所有者)の合意で、通行の場所・幅員・車両通行の可否・時間帯・管理責任・使用料などを決定することによって、通行権が発生します。

通行地役権については、登記で第三者対抗要件を備えることができます。

黙示の合意

当事者が書面や口頭で明確に合意をしていない場合でも、その土地の利用状況・取引経過・社会通念から、地役権設定の合意があったと推認できる場合も、通行地役権が認められることがあります。

たとえば、数十年も特定の土地を通行していてその土地の所有者が異議を述べていなかった場合、分譲地における私道部分のように形状や用途からして隣接地所有者の通行が当然予定されていると認められる場合などが、例として挙げられます。

時効取得について

通行する人が自ら他人の土地に通路を開設して、かつ、通行を20年以上継続すると、通行地役権を時効により取得することができる場合があります。

囲繞地通行権(民法210条・211条の趣旨)

要件のイメージ

所有地が公道に通じず、他の手段では公道に出られない(または著しく困難)場合、周囲の土地を通る権利が認められます。

通行の場所・方法の選定

囲繞地(周囲の土地)にとって損害が最も少ない場所・方法を選ぶ必要があります。幅員は「必要な通行の態様」に応じ、徒歩のみか、車両の通行まで必要か等で変わります。

償金(通行料)

原則として相当額の償金を支払います。他方、土地の分割・売買など当事者の行為で袋地が生じた場合、無償または負担が軽くなる扱いが検討されます。

妨害・高額請求への初動対応

安易な自力救済の回避

感情的な撤去・反論はトラブルを拡大させがちです。書面での通知・協議申入れを基本にし、必要に応じて専門家に相談します。

暫定措置の検討

通行が生活・事業に直結する場合、仮処分(妨害の停止や一時的な通行許容)を検討します。緊急性と必要性を疎明する資料が鍵です。

費用の扱い

使用料や償金の支払先・金額に争いがある場合、供託等で中立的に保全しつつ協議・手続きを進める方法もあります。

通行権に関する紛争の解決の流れとポイント

通行権の争いは、これまで通行が自由にできたにもかかわらず、通行の対象たる土地の所有者に通行を突然拒絶されたり、土地上に障害物を置かれて通行妨害をされたりした場合に、顕在化します。

通行権に関する紛争の解決の流れを説明します。

事実の把握

通行拒絶の状況や妨害の態様(柵・車両・荷物・言動等)を、日付入り写真・動画・メモなどで記録します。

任意交渉

通行地役権(明示的あるいは黙示的)の成否を検討し、また必要に応じて囲繞地通行権の成否も検討します。

その上で、通行の必要性、代替ルートの有無、生活・安全への影響などについて通路所有者に説明し、通行を認めてもらう条件について合意を目指します。

民事調停

通行権は近隣紛争であることも多いため、いきなり訴訟提起をせず、話し合いの手続きである民事調停を利用することも検討します。

第三者である調停委員を介し、位置・方法・対価などをすり合わせ、合意形成を目指します。

訴訟

通行地役権や囲繞地通行権に基づく通行権確認や障害物の撤去を求める妨害排除、それによる損害の賠償を求める損害賠償請求などを訴訟で請求します。

訴訟では現地検証や鑑定(測量・評価)が行われることもあります。

証拠としては、公図・地積測量図・現況測量図、航空写真・古地図、過去の通行経緯の陳述書、写真・動画、行政資料(道路台帳・位置指定の有無)、見取図・ルート比較表などが利用されます。

解決のイメージ

例1:袋地の生活通路を図面化し、償金一時金で合意

長年の徒歩通路をめぐり妨害が生じた事案。

現況測量で最小損害のルートを示し、幅員と通行時間帯、舗装と排水の管理を取り決め、償金を一時金として支払いました。その旨の合意書に通路の見取図を添付することで将来の紛争予防にも配慮しました。

例2:私道通行を地役権で明文化し、工事車両等の車両通行の条件を設定

分譲地の私道をめぐり、その通行権、特に車両の通行権が争われた事例。

黙示の通行地役権の成立が問題になったが、車両の通行まで認められるかという大きな問題点があったため、通路所有者との間で新たに通行地役権の設定契約を締結し、幅員・車両通行の条件などを明記し、合意成立。

使用料は年額払いとし、将来的な見直し条項も付しました。

例3:急迫性から仮処分で一時的通行を確保

これまで自由に通行できた通路に、通路所有者が突然障害物を設置したことから、救急搬送や消防活動などの緊急時に支障が出る恐れが生じた。

緊急性に関する証拠資料を準備し、仮処分を裁判所に申し立て、仮処分手続きの中で、和解が成立し、一定の通行料を支払うことを条件に、従来通りの通行が認められることになった。

上記は一般化した説明であり、実際の結論は個別事情によって異なります。

よくある質問(Q&A)

Q
囲繞地通行権が認められる場合、車での通行まで認められますか。
A

囲繞地通行権では、公道到達に必要な範囲で通行の態様が決まります。地域性や生活実態、代替手段の有無を踏まえ、徒歩のみとされる場合もあれば、車両通行が相当と評価される場合もあります。

Q
「別経路がある」と主張されています。囲繞地通行権は主張できませんか。
A

代替経路が現実的か(安全、勾配、距離、通行の自由度)を総合評価します。著しく困難な経路しかない場合は、囲繞地通行権が認められる余地があります。測量図・写真・所要時間の比較など客観資料で検討します。

Q
通行料はどれくらいが目安ですか。
A

一律の相場はありません。近傍の地代相場、対象たる土地の固定資産税などを参考に、通行頻度、通行による影響(騒音・安全・維持費)などを踏まえ、決定することになります。通行料は一時金で支払う場合や、年払いなどになる場合もあります。

Q
通行を妨害された場合、どんな手続が考えられますか。
A

書面での差止め要求、民事調停、仮処分(緊急時)、訴訟(通行権確認・妨害排除)などを検討します。どの手続をどの順番で使うかは、緊急性・証拠の充実度・費用対効果で決めることになります。

まとめ|通行権の成否は高度な法的判断が必要。早期に専門家のアドバイスを受けるべき。

通行権は、生活・事業の継続に不可欠なライフラインです。しかし、通行権が契約書などの書面によって明確に合意されている例はそれほど多くありません。

これまで何十年もの間、何の問題なく通行できていたにもかかわらず、ある日突然通行の拒否がなされたり、障害物の設置による妨害がなされたりする場合もあります。

このような場合には、黙示の通行地役権や囲繞地通行権が問題になることが多く、その成否を検討するには高度な法的な判断が要求されます。

したがって、通行権についての争いが生じた場合には、できるだけ早期に弁護士に相談することを強くお勧めいたします。

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