賃料滞納が続くと、賃貸経営や事業運営に重大な影響が出ます。
とはいえ、独断で賃貸物件の鍵を交換したり、強引に退去要請したりすることは法的リスクが大きく、かえって長期化・コスト増に繋がることがあります。
本ページでは、賃料滞納に対して契約解除・明渡しを目指す際の基本的な考え方から、内容証明郵便による督促、訴訟・強制執行までの流れと期間・費用の目安までを整理します。
結論は物件の種類(住居・事業用)、契約条項、滞納月数や支払状況などによって変わるため、個別事情の確認が不可欠です。これまで100件以上の建物明渡案件を手掛けてきた当事務所にぜひご相談ください。
賃料滞納による契約解除の法的要件
賃貸借契約の解除は、民法上の解除規定と「信頼関係破壊の法理」に基づいて判断されます。
一般に、賃料不払いが一時的・軽微なものにとどまる場合には直ちに解除が認められにくく、複数月にわたる滞納や、度重なる遅延・約定違反が積み重なって「信頼関係が破壊された」と評価でき、解除が認められることになります。
催告(期限を区切って支払いを求める通知)を適切に行ったうえで、それでも履行がないときに解除をするのが基本的な流れです。
判断要素の例としては、滞納期間と金額、これまでの支払態度、分割・猶予提案への応答、連帯保証人・保証会社の関与、事業用か住居用か(生活保護・子ども在住などの事情)といった事情が総合的に考慮されます。
滞納発生から明渡請求までの4ステップ
【主な対応】
- 契約書
- 更新合意
- 支払履歴
- 督促履歴
- 居住実態を確認
滞納額・期間を確定し、写真・やり取りを証拠化
【主な対応】
内容証明で支払期限・金額・振込先を明記し督促
分割案・退去合意案も併記し、連帯保証人へも送付
【主な対応】
内容証明で支払期限・金額・振込先を明記し督促
無断転貸や名義貸しの懸念があれば早期に保全
【主な対応】
明渡請求訴訟(滞納賃料・遅延損害金併合)→和解・判決
確定・仮執行後、強制執行(明渡断行)へ
内容証明郵便による督促と交渉のポイント
- 誰に送るか:賃借人本人に加え、連帯保証人、保証会社(契約がある場合)にも同趣旨で送付し、責任関係を明確化します。
- 何を明記するか:滞納額の内訳、支払期限、振込先、期限徒過時の対応(解除・明渡請求や法的手続の検討)、連絡方法を具体的に記載します。
- 選択肢を示す:事情によっては、一括が難しい場合の分割・猶予案、退去合意(明渡期日・原状回復・残置物の扱い・清算方法)の叩き台を提示します。
- 交渉の態度:感情的な文言や威迫的表現、違法な自力救済は避け、記録可能な手段で冷静に進めます。
- 合意書の要点:支払計画、明渡期日、違約時の加速条項、鍵の引渡し手順、敷金・保証金の清算、守秘・紛争解決条項まで具体化します。
訴訟・強制執行の流れと期間・費用の目安
任意交渉で解決しない場合、建物明渡請求訴訟を提起します。滞納賃料・遅延損害金・明渡しまでの使用損害金(賃料相当損害金)を併せて請求するのが一般的です。
第一審で和解に至って任意に明け渡しが実現される場合もありますが、判決となる場合もあります。判決が確定した場合には、裁判所の執行官による強制執行(明渡断行)に進みます。
期間の目安:数日〜数週間
主な費用:郵送費・作成費
期限管理と記録化。保証人・保証会社へ同時対応。
期間の目安:おおむね3〜6か月
主な費用:収入印紙・予納郵券
証拠の整理、占有移転禁止の仮処分の要否検討。
期間の目安:判決後の不服申立期間経過まで
主な費用:和解に伴う解決金の支払いなど
和解条項で退去期日と残置物の処分等について明確化。
期間の目安:数週間〜数か月
主な費用:予納金(運搬・保管費等を含む)、執行手数料
執行計画の事前協議(立会人数、運搬・保管手配)。
強制執行の費用は物件の規模・所在、残置物の量、運搬距離、保管期間などで大きく変動します。
強制執行に伴う予納金は、ケースによっては数十万円規模となることがあります。期間も、事案によって変わってきます。
自力救済は禁止|やってはいけない対応

法的手続を経ずに権利を実現する行為を「自力救済」と呼び、違法となります。
安易に自力救済に頼ることで刑事事件に発展したり、損害賠償請求を受けたりするリスクがあります。
建物明渡案件では、オーナーや不動産管理会社が自力救済で解決しようとするケースが散見されます。弁護士に依頼して、適法な手順(通知→解除→訴訟→執行)をとることで、後日の紛争や損害賠償リスクを抑えやすくなります。
- 無断の鍵交換・締め出し:住居侵入・器物損壊等に問われるおそれがあり、トラブルを深刻化させます。
- 電気・水道・ガスの一方的停止:生命・生活に直結するインフラの遮断は重大な問題を招きます。
- 夜間・執拗な訪問や威迫的言動:不当な嫌がらせとして責任追及の対象になり得ます。
- 残置物の勝手な廃棄:所有権・占有権の問題。明渡し後も、適法な手順での保管・処分が必要です。
迅速な初動対応に向けた体制
賃料滞納への対応では、初動の設計がその後の流れを左右します。
状況に応じて、事前ヒアリングで契約書・支払履歴・連絡先を確認し、督促・解除・訴訟・執行までの選択肢とメリット・留意点を可視化します。
内容証明の文案作成、証拠化の指示(記録の集約、写真・ログの保全)、保証会社や連帯保証人への連絡設計、占有移転禁止の仮処分の要否判断、強制執行を見据えた運搬・保管事業者との調整方針など、実務面の段取りを前倒しで整えることで、時間とコストの増大を抑えやすくなります。
よくある質問(Q&A)
一律の基準はありません。複数月にわたる滞納や、再三の催告にも応じないなどの事情が重なると、「信頼関係の破壊」が認められ、解除が認められやすい傾向にありますが、滞納額、弁済の見込み、生活・事業の実情等が総合的に評価されます。個別の事情を踏まえた判断が必要です。
解決に要する期間は個別の案件によって違うので一般化は難しいですが、賃料滞納の事実自体に争いがない場合には、3か月から6か月程度です。訴訟提起後に和解によって解決をした方が、判決を得て強制執行をして解決するよりも、一般的には短い期間で済みます。
判決が確定した後、相手方に退去を促さない場合には、強制執行を申し立てて強制的に明け渡しを実現する必要があります。強制執行の実施には、執行日程の調整や予納金の準備など実務的な手順が必要です。和解で具体的な退去日を定めるほうが早期解決につながる場面もあります。
未払賃料の代位弁済や、保証会社による督促が行われることがあります。明渡しについては、契約上の保証範囲を確認し、三者間での役割分担と合意形成を図るのが実務的です。
定期借家契約は、期間満了により終了する(更新がない)との法的性質があるため、滞納を理由とする解除と合わせて、契約期間満了による契約の終了についても検討が必要となります。
まとめ|適法な手順と計画的な初動が最短距離
賃料滞納への対応は、感情的な反応を排し、法に則った手順で淡々と進めることが最終的な近道になります。
内容証明郵便での適切な催告、解除、訴訟・和解、必要に応じた強制執行というルートを前提に、証拠化・スケジュール・費用を可視化しておくことで、予期せぬロスを抑えられます。
状況により最適な進め方は異なりますので、早めにご相談いただくと具体的な方針を決めやすくなります。
本稿は一般的な解説であり、実際の適用や見通しは個別の事情により変わります。最新の法令・裁判所実務を踏まえつつ、詳細は直接ご相談ください。
