老朽化・耐震不足による建物明渡・立退き請求を弁護士が解説

建物の老朽化が進んだり、耐震性が不足したりしている場合、安全確保のため、あるいは土地を有効利用するために建物の建て替えを検討せざるを得ない場面が生じます。

その際、賃借人には引っ越しをしてもらう必要がありますが、賃借人に立ち退き求めるには、法に則った手続を踏む必要がありますが、手続を開始する前に、と、立ち退きを求めることができる正当な事由があるのか、また立ち退きに必要な補償がどの程度に必要になるかなどを事前に十分に検討する必要があります。

本ページでは、老朽化・耐震不足を理由とする明渡・立退き請求の「正当事由」の考え方、立退料の位置づけと算定の枠組み、交渉から訴訟・強制執行に至る流れ、将来の紛争予防策までを説明します。

もっとも、適切な対処方法は、個別事情(建物用途・賃貸借の類型・居住や営業の実態等)によって大きく異なりますので、弁護士に相談することをお勧めします。

老朽化・耐震不足を理由とする「正当事由」とは

建物賃貸借契約において、賃貸人が賃借人に退去を求めるためには、賃貸借契約を終了させる必要があります。

賃貸借契約が終了する場合は、「更新拒絶」(契約期間満了に先立ち契約の更新を拒否すること)や解約申入れ(契約期間の途中で契約を打ち切ること)がありますが、これらを行うために、判例・法律上、「正当事由」が必要とされています。

「正当事由」というのは、賃貸借契約を終了させてもやむを得ない事情のことであり、建物の客観的な状況や賃貸人側の事情だけではなく、賃借人側の事情も考慮して総合的に判断されます。

また、正当事由が認められる場合でも、賃貸人が立退料を支払わなければならない場合がほとんどですが、賃貸人が提示する立退料の金額が正当事由の判断に影響を与えることもあります。

さらに、立ち退きを求めるにあたっての交渉の誠実性が正当事由の判断に影響を与えることもあります。

「正当事由」を判断するための要素は多岐にわたりますが、たとえば、次の要素が重視されます。

  • 建物の状態:老朽化の程度、耐震診断の結果、重大事故や災害リスク、修繕や耐震補強で対応可能か、抜本的な建替えが必要か、修繕や耐震補強に多額の費用がかかるかどうか、耐震補強工事を実施した場合の建物の利用価値の減少があるかどうか。

  • 賃貸人側の事情:開発の必要性、賃貸人側の経済的事情

  • 賃借人側の事情:居住継続や営業継続の必要性、賃借期間、代替物件発見の困難性

  • 立退料の提供金額:賃借人の不利益を緩和するための補償の有無・内容。

  • 立ち退き請求に至る前の経緯:誠実な賃貸人あるいは賃借人であったか、立ち退き時期や必要性について十分な事前説明があったか

老朽化した建物についてですが、耐震診断の結果として建物の脆弱性が具体的に示され、かつ耐震補強費用が高額で建替えをした方が経済合理性が高い場合には、正当事由が認められやすいです。

他方、一定程度の老朽化が認められても、耐震性に問題がなく、修繕費用がさほど高額ではない場合には、正当事由が認められない場合も多いです。

正当事由を補完する「立退料」の考え方と構成

立退料の算定は、法律上定まった方式があるわけではありません。

不動産実務では、「賃料の何か月分」といった計算方法を採用する場合がありますが、それも目安であり、それによって適切な立退料が計算できるわけではありません。

以下、住居・事業用に分けて、立退料算定の際に考慮される要素の例を説明します。ただし、これらはあくまでも一考慮要素にすぎず、実際の立退料の算定は、それ以外の個別事情も反映されます。

対象 主な構成要素 備考
住居 引越費用、仲介手数料・敷金・礼金等の新居契約経費、家電等の再購入費、その他転居に伴う雑費、差額家賃の補填 賃借人が高齢の場合、契約期間が長期間の場合、子育て・通学等で居住継続の必要性が高い場合などは、増額要素になる。
事業用 移転費、内装・造作移設費、休業補償、移転に伴う営業損失、広告・周知費、営業上の信用維持費、差額賃料の補填 業種・売上規模・業種の立地依存度で幅が出やすい

立退料は正当事由の判断における「補完要素」として位置づけられます。つまり。「正当事由」が認められない場合には、いくら高額の立退料を支払ったとしても、立ち退き請求は認められません。

一方、「正当事由」が十分にあるような事案の場合には、立退料の金額が下がる傾向があります。したがって、立ち退きを請求する場合には、まず「正当事由」が十分にあるかを検討する必要があることになります。

また、立退料の算定については、不動産鑑定士に意見書や鑑定評価書を求めることもあります。

賃貸人側で準備すべき証拠・資料

  • 建物の客観資料:建築年、図面、劣化診断・耐震診断報告書、事故・不具合の記録、修繕履歴。
  • 建替・改修計画:地域一帯の開発計画、当該建物の概略設計
  • 代替物件の案:移転先の情報、建て替え後再入居案の提示。
  • 立退料の根拠:差額賃料の試算表、不動産鑑定士の意見書や鑑定評価書。

交渉から訴訟までの具体的な流れと期間の目安

調査・方針決定

建物診断とリスク評価、建替・改修の選択、工程案・概算コストを確定。

事前説明・提案

個別面談や書面で、建て替えの必要性・スケジュール・代替物件の提示・補償の考え方を丁寧に説明。

書面通知

更新拒絶または解約申入れの通知。普通借家では、契約期間の有無により通知時期・効力発生時期が異なります(期間の定めがある場合は満了前の予告、期間の定めがない場合は解約申入れから一定期間経過後に終了)。いずれも正当事由についての十分な説明が必要です。

交渉・合意書締結

明渡日や立退料等の条件を交渉し、合意書を締結。

訴訟(合意に至らない場合)

明渡請求を提起し、正当事由や補償内容の相当性を主張・立証。

判決あるいは和解による解決

交渉期間や訴訟の審理期間は、争点となる正当事由の内容、その他事案の複雑さ、相手方の対応状況などで変動します。個別案件の見通しについては弁護士にご相談することをお勧めします。

解決事例

旧耐震の集合住宅

耐震診断で脆弱性(耐震不足)が判明し、震度7程度の地震で倒壊のおそれがあることが判明した。耐震補強費用の見積もり取り寄せたところ、極めて高額であり、建替えが合理的と判断された。

賃借人に対して、耐震診断書を提示し、代替住居の斡旋と立退料を提示して合意により解決した。

老朽化した店舗の明け渡し

築50年以上の木造建物を理容室に賃貸していたが、老朽化が著しいために立ち退き請求をした。

交渉での合意はできず、訴訟に至ったが、客観的な資料によって老朽化を立証するともに、従前の交渉経緯において賃貸人が誠実である一方で賃借人が不誠実であったことを立証した。

その結果、一定程度の移転費用を支払うことが和解が成立し、任意の立ち退きを実現した。

飲食店の立ち退き

前所有者が老朽化したビルの一画を飲食店に賃貸していた。オーナーチェンジによって取得したオーナーが耐震診断を取得したところ、耐震不足が判明したため、立ち退き請求。

交渉は不調であったが、訴訟において耐震不足と補強工事が経済的に不合理であること、また他のテナントが全て立ち退いていることを立証し、最終的には和解によって任意退去を実現。

その際に、当該飲食店の売上が低迷しており、利益が出ていないことの証明に成功し、立退料を低い金額に抑えることができた。

将来の紛争予防策(建替え・立ち退き請求を見据えて)

定期借家契約の活用

定期借家契約は、契約期間の満了による契約が終了する。

契約を終了させるための「正当事由」は不要。

建て替えを予定している建物には、定期借家契約で入居させることを検討する。

建替え予定であることの事前告知

建て替えを将来的に予定している場合にはその時期をできるだけ早期に告知しておく。

これだけで立ち退き請求が認められるわけではないが、事前に告知することによって賃借人に対する不意打ちにならず、また「正当事由」の判断の際に、賃貸人に有利な事情として判断される可能性がある。

適正賃料に増額する努力

賃料が周辺相場より低い場合には、賃借人が引っ越しをした際の差額賃料(引っ越し先の賃料の方が高くなること)が生じることになり、そのような事情は立退料の増額要素として判断されてしまう。

賃料が相場よりも低くならないように、適切に賃料増額をしておく必要性がある。

FAQ(よくある質問)

Q
老朽化だけで立退きを求められますか?
A

老朽化は正当事由の重要な要素ですが、賃借人の事情や代替措置、立退料の有無・内容などを含めた総合評価です。客観資料の整備と、合理的な提案が不可欠です。

老朽化のみならず、耐震不足の事実がないかを検討する必要もあります。

Q
立退料の相場はありますか?
A

一律の相場はありません。住居・事業用の別、移転の難易度、その場所を利用継続すべき必要性、差額賃料、営業補償などを様々な要素で決定されます。

具体的な査定を不動産鑑定士に依頼する方法もあります。

Q
再入居の約束は可能ですか?
A

可能です。ただし、紛争を防止するために、賃料や入居時期などの条件や工期遅延時の対応を書面で明確に定めておく必要があります。

Q
合意できず訴訟になったらどうなりますか?
A

建替えの必要性、補償の相当性、当事者の事情等が審理されます。判決・和解に基づく任意明渡しが得られない場合は、強制執行に進みます。

期間や費用は事案により幅がありますが、交渉に比べて期間や費用がかかりますので、可能な限り交渉による解決を目指した方がよいです。

まとめ|「正当事由」「立退料」を事前に十分に検討して計画的に進める

老朽化・耐震不足を理由とする立退きでは、「正当事由」の存否と、適正な「立退料の金額」が必ず問題になります。

立ち退き請求をする前に、これらの二つを十分に検討し、それに必要な費用や期間を見積もっておくことが大切です。

個別の案件によって、「正当事由」の判断や「立退料」の査定は変わってきますので、具体的な案件については弁護士に相談することを強くお勧めします。

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