用途違反や騒音などの迷惑行為が続くと、他の入居者の居住環境や建物管理が大きく損なわれます。また、無断転貸は賃貸借契約の根幹を揺るがす事態です。
ただし、感情的な対応や独断での鍵交換・締め出しなどの自力救済は法的リスクが高く、紛争を深刻化させかねません。
本ページでは、迷惑入居者への適法かつ実務的な対応として、証拠収集・是正勧告から契約解除・建物明渡、仮処分・強制執行までの流れを整理します。
具体的な方針については、契約条項、物件の属性、行為の態様や頻度によって異なり、個別の事情に応じた検討が不可欠ですので、ぜひ当事務所にご相談ください。
用法違反・迷惑行為の具体例と法的論点
「禁止された使い方」や「近隣に著しい迷惑を与える行為」は、契約違反として解除の対象になり得ます。また、無断転貸は民法上、解除事由となります。代表例は次のとおりです。
| 行為 | 典型場面 | 主な法的論点 | 初動対応 |
| 無断転貸 | 契約上の賃借人以外の使用 | 民法612条(譲渡・転貸の禁止)、契約違反の重大性 | 証拠確保→通知→契約解除、占有移転禁止仮処分の検討 |
| 用法違反 | 住居目的の物件を事務所・店舗・風俗営業・民泊などに転用 | 契約条項・用途地域・近隣への影響 | 実態確認、是正勧告→悪質な場合は解除を検討 |
| 騒音・振動・悪臭 | 深夜の大音量、ペットの鳴き声 | 受忍限度論(時間帯・継続性、他入居者への影響の大きさ) | 記録化(騒音計測・動画)→警告→悪質な場合は解除を検討 |
| 共用部の私物化・不法投棄 | 廊下に物品堆積、粗大ごみ放置 | 管理規約違反、消防法等の法規違反 | 是正期限を明示し、撤去を勧告→悪質な場合は解除を検討 |
| 危険物・火気の不適切使用 | 火災発生、可燃物の大量保管 | 消防法・管理規約、安全配慮義務 | 緊急時は警察・消防連携、書面で厳重警告→火災発生時は解除を検討 |
信頼関係破壊の法理と解除の考え方
契約解除が認められるかは、単なる違反の有無だけではなく、当事者間の信頼関係が「客観的に回復困難な程度に破壊された」といえるかで判断されます。
裁判所は、違反の内容・程度、反復継続性、故意・過失、是正の見込み、他の入居者・近隣への被害、注意や警告への反応、期間の長短などを総合評価し、賃貸借契約の基礎である「信頼関係が破壊された」と判断された場合に契約解除が認められます。
なお、無断転貸のように契約の根幹に関わる違反は、原則として「信頼関係が破壊された」と判断され、契約解除が認められる可能性が高くなります。
ただし、無断転貸であっても、関連会社への転貸や親族への転貸などで利用形態に大きな変化がない場合などには、悪質性がそれほど高くないと判断され、解除が認められない場合もあります。
用法違反や無断転貸の場合に、契約解除が認められるかどうかは、慎重な判断が必要となるケースが多いため、弁護士への相談をお勧めします。
証拠収集と記録化|何を、どう集めるか
用法違反・迷惑行為・無断転貸を利用して、契約解除を検討する場合、まずはその証拠を収集することが必要です。
証拠が十分にない中で、やみくもに契約解除の意思表示を行った場合、裁判において解除の効力が否定されてしまうリスクがあります。
以下、一般的に想定される証拠収集手続を紹介します。
音・映像の記録
日時のわかる動画・録音、騒音計の測定値(スマートフォンアプリでも可、専用機での再測定が望ましい)。
被害申告と目撃メモ
入居者・管理人の陳述書、苦情受付簿、メール・チャットのログ。
警察・行政への相談履歴
110番通報の受理番号、生活安全課の相談記録、保健所・消防の指導記録。
契約・規約・掲示
賃貸借契約書、管理規約、使用細則、掲示物の写真(周知状況の立証)。
無断転貸の痕跡
看板や郵便ポストの表示、HPなどの記載内容、宿泊サイトの掲載ページ、営業許可証の名義の確認。内部の状況確認。
証拠収集のために、撮影や騒音の記録は通常許容されますが、住戸内への無断立入りは違法となる可能性があります。適法性に配慮しながら、証拠収集をすることが重要です。
なお、調査内容によっては、調査会社(探偵業者)への依頼を検討する場合もあります。
是正勧告から建物明渡までの手順
契約条項と違反事実、これまでの違反履歴を整理すると同時に、証拠を収集し、記録化します。
内容証明郵便で違反事実の指摘、具体的な是正内容・その期限を通知。応じない場合に解除する可能性を通告。
是正勧告に従わない場合、あるいは是正勧告をするまでもなく信頼関係が著しく破壊していると判断した場合、違反事実・経過・解除理由を特定して解除通知を発送します。
なお、一般に無断転貸の場合には、是正勧告をせずに解除通知を行うことが多いです。この際、占有移転禁止の仮処分を併行して検討します。
任意の明渡しが得られないときは、明渡請求訴訟へ。判決・和解に基づき、必要に応じ強制執行(明渡断行)に進みます。
期間や費用は、違反の性質、相手方の対応、証拠の量や質等により変動します。詳細については、弁護士に相談することをお勧めします。
用法違反・迷惑行為・無断転貸に対する具体的な解決事例(事例の概要)
賃借人に対して複数回の注意をするとともに騒音を記録。また、周辺住民の騒音被害に対する陳述書を取得。改善なく騒音が繰り返されため、内容証明郵便にて解除通知。
→ その後
賃借人の親族の協力を得て和解成立し、円滑に明渡し完了。
賃借人が室内にゴミを大量に堆積させ、周囲に悪臭をまき散らしていた上、それが原因で大量のネズミが侵入。複数回の注意をするとともに、ネズミの捕獲記録を作成し、ネズミの大量侵入を記録化。
→ その後
内容証明郵便による解除通知を行い、話し合いの結果、一定の解決金を賃貸人が支払うことによって任意の明け渡しが実現。
賃借人が小火騒ぎを複数回発生させ、近隣に不安を生じさせていた。小火の程度は著しくなかったが、賃貸人から賃借人に対して、契約解除の意思非常時を行った。
→ その後
賃借人と明渡についての交渉が行われ、一定の解決金を賃貸人が支払うことによって任意の明け渡しが実現。
飲食店について無断転貸が疑われたため、飲食店の営業許可証の名義を調査したところ、賃借人ではない第三者が営業していることが判明した。そこで、無断転貸を理由として契約を解除し、訴訟を提起により明け渡しの判決を取得。
→ その後
明渡の強制執行により明け渡しを実現した。
使用目的を事務所とする賃貸借契約において、賃借人が風俗営業を行っている疑いが生じた。外観からはその証明ができなかったため、調査会社を依頼し、内偵調査を実施してもらい、風俗営業の事実が判明した。
→ その後
賃借人と調査結果をもとに交渉を行い、任意の明け渡しが実現した。
占有移転禁止の仮処分について
判決を取得して建物明渡しの強制執行をする場合、その物件を占有者している者(賃借人)に対して判決を取得して、その者に対して行う必要があります。
しかし、悪質な賃借人の場合、判決が出る前に、物件を転貸したり、全く関係ない第三者を住まわせたりすることがあります(「占有を移転する」、といいます。)。
このような場合、賃借人を相手に勝訴判決を得ても、賃借人とは別人の物が占有していることになり、強制執行ができないリスクがあります。
そのような事態を避けるために、採用される手続きが、占有移転禁止の仮処分です。
この手続においては、判決を得る前に訴訟の相手方とすべき占有者を法律上固定することができ、仮処分の後に第三者に占有が移転されても、仮処分が執行された時点の占有者に対する勝訴判決で強制執行ができるようなります。
悪質な賃借人や無断転貸をしているような賃借人は、訴訟提起以後に以上のような占有の移転をする可能性がありますので、占有移転禁止の仮処分をしておいた方がよいことになります。
また、賃借人以外の占有者がいる可能性がある場合で、その占有者が特定できない場合にも、占有移転禁止の仮処分を執行する際に、物件内部を確認して占有者を特定できることがありますので、占有者不明の場合にもこの仮処分は効果があります。
よくある質問(Q&A)
回数の基準はありません。違反の重大性や反復性、是正の見込み、被害の程度などを総合して判断されます。注意・警告の内容と相手方の反応を記録することが重要です。
単純な数値基準ではなく、時間帯(深夜か否か)、継続性、頻度、建物の遮音性能、周辺環境などを踏まえた「受忍限度」を超えるかで判断されます。計測値は有力な資料になります。
事実の特定(契約者以外の占有)と証拠化を急いで行います。調査会社による調査が効果的な場合もあります。
用法違反を理由として是正を勧告した上で、なお居住用として利用している場合には用法違反として解除できる可能性があります。
しかし、事務所目的とされていても、契約の趣旨や条項、物件の属性等によっては、居住することが認められる契約であると解釈される可能性がありますので、個別事情にしたがって判断する必要があります。
明渡期日を明確にするとともに、残置物の扱い(所有権放棄や廃棄費用)、原状回復工事の範囲、未払金の清算、期日を過ぎた場合の違約金の設定を内容とする合意書を締結した方がよいです。
賃貸借契約に管理規約が使用細則が組み込まれて(引用されて)いれば契約上の拘束力を当然に持ちます。また、組み込まれていなくても、賃貸借契約時に賃借人に対して、管理規約や使用細則の内容を説明していた場合も、拘束力を持ち、その違反を理由に解除することができる場合もあります。
周知方法や内容の明確性も重要で、同意書面などの履歴を残しておくと立証に役立ちます。
まとめ|適法な手順と綿密な記録が解決への近道
用法違反などの迷惑入居者対応は、「事実の正確な把握」と「是正勧告」から始まり、改善が得られない場合に解除・明渡請求へ進むのが基本です。
一方、無断転貸の場合には、初動から解除を見据えて動くことが一般的です。
実際に契約を解除し、明渡請求をする場合には、信頼関係破壊の法理に照らした分析が重要であり、仮処分をすべきかどうかの判断も必要になります。
紛争解決にとって最適な手続きは、個別の事情によって異なるため、契約書・規約・証拠資料を揃えたうえで、早めに弁護士に相談することをお勧めします。
