【大家さん向け】賃貸の電気代・水道代トラブルを解決|弁護士が解説

賃貸経営において、家賃や共益費と並んでオーナー様や管理会社様を悩ませるのが、電気代・水道代といった水道光熱費の請求方法です。

特に建物全体で一括受電(高圧受電など)を行い、オーナー様が子メーターに基づいて各戸に請求している場合、「管理コストや設備維持費を実費に上乗せしたい」というご相談をいただくことが多くあります。

しかし、実費を超えた請求運用は、電気事業法や消費者契約法などの観点から複数の法的リスクを伴う可能性があり、極めて慎重な判断が求められます。

本ページでは、オーナー様・管理会社様の視点から、水道光熱費の実費上乗せ請求に関する法的な論点と、実務上の注意点を整理します。

なお、適切な精算方法は物件の契約形態や設備状況により異なるため、現在の運用が法的に有効かどうか、まずは専門家にご相談ください。

実費への「上乗せ請求」が抱える法的リスク

オーナー様(賃貸人)が電力会社や水道局に支払う実費に対し、明確な根拠なく「1.3倍」などの一定料率を上乗せして賃借人に請求する行為は、推奨できません。このような運用は、以下のようなリスクがあります。

リスク(1) 電気事業法・水道法との関係

電気や水道は、安定供給が求められる重要なライフラインです。そのため、これらを「業」として販売(小売)するには、法律に基づく許可や登録が必要です(例:小売電気事業者)。

賃貸人が実費にマージンを上乗せして賃借人に請求する行為は、実質的に電気や水道の「転売」にあたると解釈される可能性があります。

もし「転売」とみなされれば、無登録での電気・水道の小売事業と判断され、電気事業法や水道法に抵触するリスクが生じます。

(※実費をそのまま、あるいは検針・計算等の合理的な実費・手数料の範囲内で請求することは、通常「転売」にはあたらないと解されています。)

リスク(2) 消費者契約法との関係

賃貸借契約のうち、賃借人が個人(消費者)の場合は、消費者契約法が適用されます。

この法律では、消費者の利益を一方的に害する条項は無効と定められています。

例えば、「実費の1.3倍」という上乗せ幅が、検針・計算・請求にかかる事務手数料や一括受電を維持するための管理コストの実費などとして客観的・合理的に説明できる範囲を著しく超えている場合、消費者(賃借人)にとって一方的に不利益な条項として、無効と判断される可能性があります。

リスク(3) 景品表示法との関係

例えば、広告(物件情報サイトなど)で「電気代:実費」と表示していながら、実際には「実費の1.3倍」を請求していた場合、景品表示法上の「有利誤認表示」にあたる可能性があります。

リスク(4) 不当利得返還請求

根拠のない上乗せをして電気代や水道代を請求していた場合、後日賃借人から「根拠のない請求だ」として不当利得返還請求を受けるリスクがあります。

電気代・水道代の主な精算方法と特徴

実費への上乗せ請求が持つリスクを踏まえ、実務上とられる主な精算方法の特徴を比較整理します。

精算方法 概要 オーナー側メリット オーナー側デメリット・リスク
(A) 個別メーター・実費精算 電力会社・水道局が各戸にメーターを設置し、各賃借人が直接契約・支払いを行う。 請求事務が不要。最も公平でトラブルがない。 (特になし)※新築や築浅物件が中心。
(B) 子メーター・実費按分 オーナーが一括契約し、各戸に設置した子メーターに基づき、使用料(実費)を計算して請求する。 使用量に応じた公平な請求が可能。 検針・計算・請求の事務負担。子メーターの設置・検定・交換コスト。一括受電のための設備の維持費用負担。
(C) 固定費(定額) 「水道光熱費:月額〇円」のように、使用量に関わらず定額を徴収する。 請求事務が簡便。賃借人の使用量を気にしなくてよい。 実際の使用量が固定費を上回るリスク(赤字)。逆に著しく少ない場合の不公平感や値下げ要求のリスク。
(D) 共益費・管理費に内包 水道光熱費を独立させず、共益費や管理費の一部として徴収する。 請求事務が簡便。 金額設定の合理的根拠が求められる。共益費の値上げ交渉が難航する可能性。

「管理コスト」を請求したい場合の考え方

安易に実費に上乗せをすることは推奨できませんが、オーナー様としては一括受電のための設備の維持費用、子メーターの検針や請求書作成にかかる管理コストを何らかの形で回収したいと考えるのは当然のことです。

また、賃借人の側でも、オーナー様が一括受電をすることによって各自で電力会社と契約して受電するよりも安価かつ簡易に電力供給を得ることができるというメリットがあります。

そこで、もしそのコストを賃借人に負担してもらうのであれば、以下のような方法が考えられます。

方法1:共益費で調整する

最も一般的な方法です。

検針・計算等の管理コストも、建物の維持管理費用の一部として、共益費の金額設定に反映させます。ただし、この場合、電気や水道の使用量とは関係なく一定の共益費を支払ってもらうことになるため、使用量の少ない賃借人において不公平感が募る可能性があります。

方法2:事務手数料として明記する

「水道光熱費:実費 + 事務手数料 月額〇〇円」のように、管理コストを「事務手数料」として契約書に明確に記載し、賃借人の合意を得る方法です。

ただし、社会通念上、実費(人件費やシステム利用料など)に見合った合理的な金額である必要がある必要があり、一括受電のための設備維持費用分もこれに含もうとした場合は、「事務手数料」の金額としては高額になりすぎてしまうリスクがあります。

方法3:電気代・水道代の計算に関する条項を契約書に明記する

契約書の条項として、電気代・水道代の計算に関する条項を明確に決めておくという方法があります。たとえば以下のような条項です。計算方法を明示し、その趣旨を記載しておくことで賃借人の理解を得やすくします。

  1. 賃貸人は、本物件における電気の供給を一括して受電するものとし、当該電気料金を立替えて支払うものとする。

  2. 賃借人は、当月分の電気料金として、賃貸人が電力会社に支払った実費に、当該実費の30%を加算した金額を、賃貸人が指定する方法により、翌月〇日までに支払うものとする。

  3. 前項の電気料金精算額には、一括受電に伴う設備管理費用、請求事務手数料等が含まれるものとする。

まとめ:トラブル予防のためには透明性の高い契約が重要

賃貸経営において、電気代・水道代の実費に安易にマージンを上乗せして請求する運用は、様々な法的リスクを伴います。また、賃借人との信頼関係を損ない、長期的な物件価値の低下につながるおそれもあります。

トラブルを未然に防ぐために最も重要なことは、契約時における透明性の確保です。

  • (A) 賃借人が電力会社等と直接契約するのか
  • (B) オーナーが実費を按分して請求するのか
  • (C) 固定費(定額)なのか
  • (D) 共益費や管理費に含まれているのか
  • (E) 実費とは別に、合理的な範囲の「事務手数料」や「維持管理コスト」が発生するのか
  • (F)以上について、契約書条項に明示的に規定されているかどうか。

いずれにしても、賃貸借契約書および重要事項説明書に明確に記載し、契約締結時に賃借人に対して丁寧に説明し、十分な理解と合意を得ておくことが、将来の紛争を避ける最善の策となります。

なお、本ページでの解説はあくまで一般的な情報提供に留まるものであり、実際の運用においては物件ごとの契約条件や設備状況を踏まえた個別の法的な判断が欠かせません。

当事務所では、実務上のリスクを徹底的に排除しつつ、管理コストを適正に回収するための条項設計や運用のアドバイスを行っております。現在の請求方法が適切かご不安な場合や、契約書の雛形を見直したいとお考えの際は、ぜひ当事務所にご相談ください。

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