賃貸借契約の更新料はオーナー様の重要な収入源です
不動産オーナー様や管理会社の皆様にとって、賃貸借契約の更新料は、単なる臨時収入ではなく、長期にわたる安定した賃貸経営を支えるための重要なキャッシュフローの一部ではないでしょうか。しかし、この更新料、当然のように請求できるものだとお考えであれば、注意が必要です。
更新料を賃借人に請求するための絶対的な大原則は、賃貸借契約書に「更新料の支払い義務」に関する明確な特約が存在することです。契約書に定めがなければ、たとえ地域の慣習があったとしても、法的に請求することはできません。
そして、さらに重要なのは、たとえ更新料の条項があったとしても、その書き方次第では、いざという時に請求権を失ってしまうリスクが潜んでいるという事実です。本記事では、その具体的なリスクと、専門家の立場から推奨する確実な解決策を詳しく解説してまいります。不動産経営における様々な課題については、不動産トラブルに関する当事務所の相談事例でもご紹介しておりますので、併せてご参照ください。
その契約書では危険!更新料を請求できなくなる落とし穴
多くの賃貸借契約書で目にする「本契約は、甲乙協議の上これを更新することができる」といった条項。一見すると、非常に穏当で一般的な規定に見えます。しかし、この「協議の上」という文言こそが、オーナー様の更新料収入を将来にわたって失わせかねない、大きな落とし穴なのです。
「協議の上、更新する」条項が法定更新を招く理由
なぜ「協議の上」という条項が危険なのでしょうか。それは、賃借人との間で更新条件(例えば、賃料の増額など)に関する協議が不調に終わった場合に、「法定更新」が成立してしまうリスクがあるからです。
法定更新とは、契約期間が満了しても当事者間で新たな契約条件の合意(合意更新)が成立せず、かつ、賃貸人から正当事由のある更新拒絶の通知もない場合に、借地借家法の規定に基づき、従前と同一の条件(ただし、契約期間の定めはないものとされる)で契約が自動的に更新される制度を指します。
つまり、「協議」が整わなければ「合意」は成立しません。その結果、賃借人が物件を使い続ける限り、自動的に法定更新へと移行してしまうのです。一度法定更新となると、オーナー様にとって非常に不利な状況に立たされることになります。なお、賃貸借契約には、期間の定めがある普通借家契約のほかに、定期借家契約という形態もありますが、ここでは普通借家契約を前提に解説を進めます。

法定更新の最大の恐怖:将来の更新料収入がゼロになる
法定更新がもたらす大きなリスクの一つは、更新料を請求できなくなる(または請求が争いになりやすくなる)可能性があることです。
前述の通り、法定更新が成立すると、借地借家法上は「従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす」とされる一方で、更新後の契約期間は「定めがないもの」とされます。その結果、当初想定していた「2年ごと」といった更新の区切りがなくなり、更新という概念自体が失われ、更新料の請求ができなくなる(または争いになり得る)可能性があります。
例えば、2年ごとに1ヶ月分の賃料(仮に10万円とします)を更新料として設定していたとします。法定更新になってしまえば、その後10年間で得られるはずだった50万円の収入が失われます。これは一回限りの損失ではなく、長期的なキャッシュフロー計画に深刻な影響を及ぼす、経営上の重大な問題と言えるでしょう。
更新料の回収リスクを下げる「自動更新条項」とは
では、法定更新のリスクを回避し、更新料を安定的に確保するためには、契約書にどのような条項を盛り込むべきなのでしょうか。当事務所が実務上強く推奨しているのが、「自動更新条項」の導入です。
この条項は、単に「協議する」という曖昧なものではなく、更新に関するルールを事前に明確に合意しておくものです。当事務所が多くの不動産オーナー様や管理会社様にご説明する際、特に強調している点があります。それは、一般的な自動更新条項は、「法定更新」ではなく、あらかじめ更新について合意しておく「(事前の)合意更新」の一種だということです。この点を誤解されている方も少なくありませんので注意が必要です。
事前に更新のルールを合意しておくことで、更新時の協議が不調に終わったとしても、契約が自動的に法定更新へ移行してしまう最悪の事態を防ぐことができます。つまり、「期間の定めのない契約」になってしまうリスクを根本から排除できるのです。
具体的には、以下のような条項を契約書に設けることをお勧めします。
【推奨条項例】
第〇条(契約の更新)
- 本契約の期間が満了する6ヶ月前までに、賃貸人または賃借人のいずれからも、相手方に対する書面による契約終了の通知がないときは、本契約は従前の契約と同一の条件で2年間更新されるものとし、以後も同様とする。
- 賃借人は、前項の規定または当事者間の合意により本契約が更新される場合、その更新料として、更新後の新賃料の1ヶ月分に相当する金員を、更新期間満了日の翌日までに賃貸人に支払わなければならない。
この条項のポイントは2つです。第1項で、反対の意思表示がなければ自動的に契約が更新される旨を明確に定め、更新協議の不調に伴って法定更新になってしまう余地をなくします。そして第2項で、その自動更新を含むあらゆる形態の更新において更新料の支払い義務が生じることを明確に規定します。これにより、更新料を安定的かつ確実に請求するための強固な法的根拠を構築することができるのです。

更新料に関するよくある質問(Q&A)
ここからは、更新料に関してオーナー様や管理会社の皆様からよく寄せられるご質問について、Q&A形式でお答えします。
Q. そもそも更新料の支払特約は法的に有効ですか?
A. はい、高額すぎるといった特段の事情がない限り、有効と判断されるのが現在の判例の考え方です。
過去には、更新料特約が消費者契約法に違反し無効ではないか、と争われたことがありました。しかし、最高裁判所は平成23年7月15日の判決で、更新料の支払いを義務付ける条項について、「賃料の補充や前払い、契約を継続するための対価などの趣旨を含む複合的な性質を持つもの」と判断しました。
そして、更新料の金額が賃料の額や契約期間に照らして高額すぎるなどの特段の事情がない限りは、消費者契約法に違反して無効になるものではない、との判断基準を示しています。したがって、最高裁判決の枠組みに照らすと、更新料条項は、条項の明確性や賃料額・契約期間等との関係で高額すぎるなどの特段の事情がない限り、有効と判断される傾向があります。
Q. 契約書に有効な条項があっても支払いを拒否されたら?
A. まずは書面で督促し、それでも支払われない場合は法的手続きを検討します。ただし、更新料の不払いのみを理由とした契約解除は困難です。
有効な契約条項があるにもかかわらず賃借人が更新料の支払いを拒否した場合、まずは内容証明郵便などを利用して、支払い義務があること、および支払期限を明確に伝えて督促します。それでも支払いに応じない場合は、支払督促や少額訴訟といった法的手続きを検討することになります。
ここで注意が必要なのは、更新料の不払いが、直ちに賃貸借契約の解除事由にはならないという点です。賃料滞納とは異なり、更新料の不払いだけでは、賃貸人と賃借人との間の「信頼関係が破壊された」とまでは通常認められません。そのため、更新料の不払いを理由に建物明渡請求を行うことは、法的に非常にハードルが高いとご理解ください。安易に強制退去を迫るなどの対応は、かえってオーナー様が不利な立場に陥るリスクもありますので、慎重な対応が求められます。
Q. 更新を機に賃料を値上げしたい場合はどうすればいいですか?
A. 自動更新条項とは別に、賃料増額のための交渉と通知を適切な時期に行う必要があります。
本記事で推奨した自動更新条項は、原則として「従前と同一の条件で」更新されることを定めています。そのため、更新を機に賃料を値上げしたい場合は、この条項とは別に、賃料増額請求の手続きを踏む必要があります。
具体的には、契約の更新期間が満了する相当期間前(数ヶ月前が望ましい)に、賃借人に対して賃料を増額したい旨の通知を送り、交渉を開始します。もし、当事者間の交渉で合意に至らない場合は、簡易裁判所に賃料増額の調停を申し立て、最終的には訴訟で適正な賃料を判断してもらうことになります。
重要なのは、「更新料の確実な回収」と「賃料の増額改定」は、法的には別の手続きであると認識し、それぞれ戦略的に進めることです。自動更新条項で安定した更新料収入を確保しつつ、市況に応じた賃料改定は別途交渉していく、という二段構えで臨むのが賢明です。
まとめ|契約書の見直しで安定した賃貸経営を
本記事で解説してまいりました通り、安定した更新料収入を確保するためには、契約書にただ更新料の定めを置くだけでは不十分です。
- 「協議の上、更新する」といった曖昧な条項は、法定更新を招き、将来の更新料収入を失うリスクがあること。
- このリスクを回避するためには、法定更新の余地を与えない「自動更新条項」を契約書に盛り込むことが極めて重要であること。
この2点をぜひご理解いただければと存じます。お手元の賃貸借契約書を今一度ご確認いただき、もし少しでもご不安な点があれば、それは将来の経営リスクを放置しているのと同じです。安定した賃貸経営の基盤を固めるためにも、契約書の見直しは不可欠です。
当事務所では、不動産オーナー様や管理会社様向けの顧問契約を通じて、日常的な契約書のレビューやトラブルの未然防止をサポートしております。個別の契約書に関するご相談も承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。
